たとえば1年の雇用契約で働いている人に、60歳に到達したという理由で、会社を退社しなければならない「定年」というものはありえるのでしょうか。1年などの期間を定めた有期雇用の人と定年を結びつける時点で、すでに有期雇用が反復継続して更新されるという、形式的有期雇用(ほぼ無期雇用)を想定していることが前提になっていますね。

温故知新・・・。有期雇用は、明治期に「渡り職工」を引き留めるため、雇用契約した期間中はやむを得ない理由がなければ辞められない、として契約を結んだ定期職工制度として始まったようですが、これがあまり効果なく、逆に第一次大戦後に有期雇用が景気変動に対処するための臨時工制度に変質した、と言われています。

一方、この時期に(臨時工でない)本工の方は、新卒定期採用されるようになり、この子飼いの本工のほうに次第に55歳定年制が普及していきました。第一次世界大戦後ということですから大正10年ごろのことかと思われます。有期雇用と定年というテーマの話しですが、そもそも定年制は「本工」という終身雇用を前提とした雇用関係のためのものであることが歴史的にも明らかです。

また、定年は定年年齢における雇用の喪失という不利益だけでなく、定年までの雇用の保障や勤続年数による賃金上昇などの利益をも伴っています。もし、この年功的処遇が成果主義に取って代わられた場合には、定年は従業員にとってメリットのない制度となり、定年制の合理性が失われる、と考えられます。

定年の「年齢」についての移り変わりを見てみれば、昭和50年頃から高年齢者の雇用確保の観点から政府が定年延長政策を進め、昭和61年に55歳定年を60歳に引き上げることを目指して、高年齢者雇用安定法の改正によって60歳定年が努力義務となりました。また同時に労働大臣の定年引上げ勧告、命令を可能とし、さらには企業名公表という社会的制裁までも駆使した結果、平成6年には8割の企業で定年60歳以上が導入されました。平成10年には、定年は60歳を下回ることはできない、との強行規定が施行され、平成16年改正で65歳までの高年齢者雇用確保措置の導入が義務化され、平成25年からは継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止され、希望者全員を65歳まで継続雇用することが会社の義務となりました。

先に述べたように、「一定のS字カーブを描くような賃金上昇」によって処遇される年功序列制度がない中では、定年制の合理性は否定されると考えられますが、無期転換された有期雇用労働者は正にこれにあたるように思われます。このことからも無期雇用のパートタイマーに定年制を設けることは、慎重にならざるをえませんね。

さて、有期雇用労働者について、無期雇用労働者の定年と同じような結果をもたらすことに、一定年齢以上の契約不更新ということがあります。この場合、「新たな雇入れ」における年齢制限(雇用対策法第10条)の規制があるとし、正社員の定年年齢を下回らなければ、年齢制限を設けることの合理性が担保できる、という考え方も一部にはあるようです。このことについて、厚生労働省 高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)に次のように述べられています。

高年齢者雇用安定法第9条は、主として期間の定めのない労働者に対する継続雇用制度の導入等を求めているため、有期労働契約のように、本来、年齢とは関係なく、一定の期間の経過により契約終了となるものは、別の問題であると考えられます。
ただし、有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている場合は、有期労働契約であっても反復継続して契約を更新することが前提となっていることが多いと考えられ、反復継続して契約の更新がなされているときには、期間の定めのない雇用とみなされることがあります。これにより、定年の定めをしているものと解されることがあり、その場合には、65歳を下回る年齢に達した日以後は契約しない旨の定めは、高年齢者雇用安定法第9条違反であると解されます。
したがって、有期契約労働者に対する雇い止めの年齢についても、高年齢者雇用安定法第9条の趣旨を踏まえ、段階的に引き上げていくことなど、高年齢者雇用確保措置を講じていくことが望ましいと考えられます。

このことから、先に述べた正社員の定年年齢を有期雇用労働者の更新年齢の上限とすることは、正社員の定年年齢が65歳以上であれば適法、65歳未満であれば違法と考えることが適切なようです。

こういろいろ考えてみると・・・、「有期雇用労働者」と「定年」の気になる関係については、「有期雇用に定年は似合わない」という肌感覚基づく意見に、少しは根拠となりそうな論点がいくつか見えてくるように思います。