そのとき「かとく」が動いた!(過重労働撲滅特別対策班)

本年(平成27年)4月に東京と大阪の労働局に新設された「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が、設置からわずか3ヵ月で、大手靴小売AB社を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。7月3日のテレビ・新聞等で大々的に報道されましたが、どういうことだったのでしょうか。これに関する動きを時系列で報道各紙から読み取ってみました。

  • 大手靴小売AB社(売上高2,135億84百万円/国内807店舗/従業員数7,566名(うちアルバイト4,235名)
  • 東京労働局によると、(AB社では)閉店後の店内レイアウトの変更やイベント準備が長時間労働につながっていた。過去にも違法な長時間労働をさせる店があり、労働基準監督署が指導してきた。(朝日新聞H27.7.3)
  • 平成23年~25年 労働局が、16店舗に改善指導をした。(毎日新聞H27.7.3)
  • 平成25年 労働局が、AB社の本社に3回、改善指導をした。(毎日7.3)
  • 労働局の指導にもかかわらず、本社と14店舗は改善しておら(ない)。(毎日7.3)
  • 平成26年4月13日~同年5月10日 AB社のGS池袋店は、労働基準法36条に定める時間外・休日労働協定(以下36協定)を労働基準監督署に届け出せずに、従業員2人に各々97時間、112時間の残業をさせた。(毎日7.3)
  • 同上 AB社の原宿店では、36協定で定めた残業限度時間の1ヵ月79時間を超え2人の従業員に各々98時間、109時間の残業をさせた。(毎日7.3)
  • (上記の2店舗では)いずれも時間外賃金は適正に支払われていた。(日本経済新聞H27.7.3)
  • 平成26年8月 AB社は、労務管理を見直すなど残業時間削減に取り組み、「全店舗で違法な長時間労働を解消した」としてい(た)。(朝日7.3)
  • 平成26年9月 厚労省が、労基法に違反する長時間労働や賃金未払いなど、ブラック企業撲滅のため「長時間労働削減推進本部」を立ち上げた。(産経新聞H27.7.3)
  • 平成26年11月 長時間労働が疑われる全国の4561事業所に立ち入り検査。83.6%の3811事業所で時間外労働や賃金不払いなどの違反が見つかった。(産経7.3)
  • 労基署の捜査に対し「労働時間のデータを書き換えるなど、違反を隠そうとする事業所は多い」(厚労省)という。また、大企業になると調査対象者が幅広く捜査が難しい。(産経7.3)
  • 平成27年4月1日 (上記のことから)今年度から東京労働局と大阪労働局に「過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)」を新設。(産経7.3)
  • (かとくには)長時間労働の立証を得意とする監督官13人を配置し、全国展開する企業を中心に指導、監督している。(毎日7.3)
  • 平成27年5月18日 塩崎恭久厚生労働相は、全国の労働局長に対し、違法な長時間労働を繰り返す「ブラック企業」の企業名を行政指導の段階で公表するよう指示した(これまでは原則として書類送検した段階で公表していた)。長時間労働の抑制を狙った新たな取り組みで、複数の都道府県に支店や営業所がある大企業が対象。厚労省によると、公表対象は、1年程度の間に3ヵ所以上の支店や営業所で労働時間や割増賃金に関する労働基準法違反があり、時間外労働が月100時間超となる労働者が多数に上るといった悪質な企業。(産経5.18)
  • 平成27年7月2日 東京労働局は2日、靴販売大手AB社の東京都内の2店舗で従業員に(平成26年4月13日~同年5月10日の期間)違法な長時間労働をさせたとして、運営会社社長と、人事総務担当役員、店長2人の計3人を労働基準法違反の容疑で書類送検した。(毎日7.3)

ABC_matomeこのように時系列で見ていくと、「かとく」が設置されてわずか3ヵ月でいきなり摘発されて書類送検された、というよりも、それ以前に数年にわたって水面下で労働局から労務管理の改善を指導されてきていた(しかし、ちゃんと是正していなかった)ようです。

それにしても、原宿店の36協定の1ヵ月あたりの上限時間が79時間という、この微妙さが引っかかりますね。79時間ということは、80時間の一歩手前じゃないですか。そもそも時間外労働の限度に関する基準に照らせば、1ヵ月45時間が限度のはずです。それを大幅に上回っているのは、特別条項付きにしているのだと思われますが、かなり大きな数字で80時間一歩手前というこの微妙さが変です。

脳・心臓疾患の業務起因性の判断において、過重負荷の要素に労働時間がありますが、「発症前1ヵ月間に100時間又は2~6ヵ月平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い」とされています。このことから、上限時間が月80時間を超えるような36協定は労基署で指導の対象となる可能性があるので、受理されるギリギリの線で設定していたように、この微妙さの意味合いを受け取りましたが・・・。さぁ、どうでしょう。

一方、日経新聞によれば「時間外賃金は適正に支払われたていた」ということなので、超過勤務の時間数カウント及び時間外勤務が月60時間を超えた部分は1.50倍での支払い等は行っていたのでしょう。しかしかえってそのことで、この件に関するAB社の制度設計のコンセプトは、”賃金不払いさえしなければいくら長時間残業させてもいいでしょ”、と言っているように見え、長時間の過重労働による業務上災害が発生した場合の被災者及び使用者としてのリスクの観点が抜け落ちていると言わざるを得ない、と感じました。